アップルが雑誌購読サービス「Apple News+」を始める戦略的理由の仮説
- 2019.04.17
- ビジネス・経済
さアップルが定額制雑誌購読サービスを開始することを発表しました。
なぜアップルが雑誌購読サービス「Apple News+」と思われる人も多いかと思います。筆者も理由が良くわからなかったので、仮説を検討したいと思います。
雑誌購読で過去調査した会社は、富士山マガジンサービスです。しかしこちらはどちらかというと、リアルな雑誌の購読でってオンラインはコアではなかったはずです。
関連記事:富士山マガジンサービス(3138) 事業分析、株価|雑誌の定期購買サービス、気になる小型株
日本市場においては、雑誌購読サービスはまだまだブルーオーシャンという印象があり、実は市場としては魅力的だったりします。
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単純に会社全体の売上成長の目的があるから
さて、アップルは成長が鈍化しているという報道が増えてきています。
理由は様々あると思われますが、本質的にはプロダクトの新しさを顧客に訴求できなくなってきているということでしょう。
iPhoneは常に新しいバージョンになると新たな革新的な機能が付いてきましたが、最近はその流れも鈍化している印象が強いです。
それを反映してか、業績の方も全体としては低迷気味。
そこで経営戦略として考えられるのは新たなレベニューリソースを獲得するというもの。
雑誌の購読サービスはその手始めということではないでしょうか。
しかし、雑誌購読サービスを始めたからといって会社全体の売上に対するインパクトは限定的ではないかと思います。
理由としては、全世界のアップルユーザーが10億人いると仮定して、購読率が1%とします。
月額の購読料金が10USD, 約1,000円とします。
すると、年間の売上インパクトは1,200億円。
アップルの全体の売上は、26兆円です。これに比べると微々たるものであることが理解できます。
もちろん、利益率という観点で言うと雑誌購読サービスは原価のあまりかからないサービスなので魅力的ではありますが、全体に与えるインパクトは限定的な印象があります。
売上、利益を超えた何か先の狙いがある可能性
ビジネス単体としての魅力度は限定的である可能性がありますが、それ以上の何かが背景にある気がしています。
それらを勝手に仮説を立てて検証していきたいと思います。
考えられるのは、データ目的、競合潰し、メディア関係との関係構築、自社のエコシステムの付加価値の向上、サブスクビジネスの拡大、といったところでしょうか。
それぞれ見ていきましょう。
データ目的としての雑誌定期購買ビジネス
Appleは様々なデータを収集しています。iPhoneやMacユーザーなら行動履歴から、アプリのダウンロードから趣味嗜好、一部のアプリからはユーザーの行動データも確保しているでしょう。
しかし、データという観点においてはGoogleには劣る可能性が高いです。Googleは検索やブラウザを通して、ユーザーの細かいデータまで確保することができています。
そこで、Appleは雑誌購買というユーザーの趣味嗜好がデータとして獲得できるサービスに魅力を感じているのではないでしょうか。
電子書籍の場合どこまでデータを獲得するかは定かではありませんが、誰が何を読んでいるのか、どのページでどれぐらい滞在しているかといったデータは確保できるでしょう。
このデータはとても貴重で、ユーザーの趣味嗜好にあった広告が打てるし、データを持って最適な顧客にアプローチしたい企業には喉から手が出るほど欲しいものです。
雑誌購買がAppleユーザーの10%まで広まれば、10億人いるユーザーの1億人のデータを収集できることになり、このデータの価値は計り知れません。
先手を打ち、競合潰しにかかっているから
最近の目立つ動きとしてAmazonがあります。Amazonのプライム会員化によるユーザーの囲い込み戦略が加速しています。
映画、音楽、書籍、日用品のデリバリー、などプライム会員向けに付加価値提供が加速していて、ユーザー数も加速的に増えています。
Appleとしては、これまでApple上のプラットフォーム(iTune, Apple Store 等)で顧客の囲い込みができていたのですが、ここにきてAmazonにユーザーを奪われて始めているのでしょう。
そこで、何らかの形でAmazonに対抗するという目的で雑誌購買サービスを始めたと考えられます。
AmazonはすでにAmazonPrime上のPrimeReadingにて一部雑誌を無料開放していますが、雑誌の定期購買サービスは初めていません。
先手を打ち、コンテンツとして魅力度の高い雑誌と提携ができれば、少なくともAmazonに同等のサービスを作らせることはできません。
動きとしては、Amazonに比べて、だいぶ後手になっている感は否めませんが、とにかく動くしかないという判断たったのではないでしょうか。
雑誌、メディアとの関係構築のため
これは少々無理かもしれませんが、Appleがコンテンツこそプラットフォームにおいて重要であるということを再認識して、メディア各社との関係性の強化を図っているのではないかということです。
人々の生活の中で、メディアが占める割合は、デジタル化が進んだ現代においてもかなりの時間を占めていると考えられます。
基本的には、AmazonもGoogleもFacebookもいかにユーザーの時間を奪えるかということでしょう。
それが音楽であったり、映画であったり、購買活動であったり、メディア閲覧だったりするわけです。
この中で、メディアは過去、将来ともに消滅することがない生活の時間の一部として、Appleは重要性を再認識、そこの時間の囲い込みを狙っているのではないでしょうか。
これは、メディアでのユーザーの活動が他に比べてエンゲージメントが高い可能性もあります。
サブスクリプション型のビジネスモデルを構築したいと考えているから
最後に考えられるのが、サブスクリプション型のビジネスモデルを次の事業の柱として考えているという理由です。
雑誌購買サービスは、ほんの一部に過ぎず、今後サービスは多様化する可能性があります。
例えば、すでに音楽はAppleMusicとしてサブスク型が成功しています。
次に雑誌購買、その次は動画サービスや、雑誌購買サービスなどサービスの幅を広げて来る可能性があります。
AmazonのPrime会員と同じような戦略だと思います。
いずれば、すべてパッケージ化して、ApplePrimeみたいな名前のサービスが始まるかもしれません。
このApplePrimeは、MacやiPhoneといった製品に付随しているサービスとなる可能性もあり、製品自体の購入もサブスクリプション型となっていく可能性もあります。
すべてのサービスがサブスクリプション型になるというトレンドは今後も変わらない可能性が大いにあります。
そのように考えると、今後、業界特化型で、プラットフォームとしてサービス提供していた企業にとってはGoogleやApple、Amazonといった企業が参入して来る流れでは脅威になります。
ユーザーにとっては、幅広いサービスを安い単価でサブスクリプションができるというメリットがありますが、個々のサービサーにとっては安く買い叩かれる可能性があります。
しっかりとしたモデル設計をプラットフォームが構築できないと、エコシステムは崩壊する可能性があるので、この点も注意が必要なのでしょう。
ZOZOTOWNのようにプラットフォームとして成立していたエコシステムが、利用企業にとって不利な条件や魅力度の低下、ブランドの毀損につながるようになれば、顧客は離れ、エコシステム全体の価値は下がってしまうというリスクにも注視しないといけません。
それを補うだけのユーザー数があれば、話は別だと思いますが。
以上、勝手に仮説を立ててみました。
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